「軒ゼロ住宅」は危険なのか|メリット・デメリットと後悔しない家づくりのコツ

「マイホームの形状に迷っている」「家の軒にはどのような役割があるのか知りたい」という方のために、最近増えている「軒ゼロ住宅」の特徴とメリット・デメリット、軒について多くの方からいただくご質問(納まりや寸法など)について詳しく解説します。
間取りを後悔しないためのポイントも紹介しますので、ぜひ最後までごらんください。
● 軒ゼロ住宅や軒の出が短い住宅には、外壁の劣化や日射、雨漏りなど、無視できないデメリットもあるので注意が必要です。
●「蓮見工務店 + 蓮見建築設計事務所」は、「手作りの家」をモットーに埼玉県で高性能な住宅を数多く手がけています。
目次
軒ゼロ住宅とは

「軒ゼロ住宅」とは、住宅の軒がほとんど出ていない形状の住宅を指します。
軒(のき)は建物の外壁よりも外側に出ている屋根の先端で、木造住宅において雨・日差し・雪などを遮り、建物を守る役割がある部分です。

しかし、近年は住宅構法の進化や建築材料の性能向上、住宅デザインの変化に伴い、軒が出ていないキューブ型住宅や片流れ屋根※の住宅が増えています。
※片流れ屋根:片側に棟があり、一方にだけ傾斜している形状

また、従来の寄棟屋根※や切妻屋根※の家でも、軒が短い家も珍しくありません。
※寄棟(よせむね)屋根:頂点の棟(むね)と、四方に軒先に向かって下がる棟がある形状
※切妻(きりづま)屋根:頂点に棟(むね)があり、2面の屋根で構成されている形状

▶︎おすすめコラム:平屋の屋根にはどんな種類がある?おすすめの形は?
軒ゼロ&軒の出が短い住宅のメリット

軒ゼロの住宅や軒がほとんど出ていない家には、デザイン面や防災面、コスト面においてメリットがあります。
- シンプルでスタイリッシュな外観デザインになる
- 軒が下から吹き上げる風によって破損するリスクが少ない
- 建築費用を抑えられる(シンプルな形状であるため)
- メンテナンス費用を抑えられる(屋根面積が小さく、軒の取り合い補修が少ないため)
- 室内が明るい(軒によって日差しが遮られない)
- 建築基準法上の建築面積※を小さくできて、狭小地でも建ぺい率※の条件をクリアしやすい
- 建物と隣地境界線・道路境界線などとの距離が近い場合、斜線制限※や防火規定※の影響を受けにくい
※建築面積:建築基準法施行令第2条第1項第2号で定義されている建物水平投影面積で、外壁や柱の中心線から1m以上突き出る軒は、その先端から1m後退した部分まで建築面積に算入される
※建ぺい(建蔽)率:建築基準法第53条で定義されている敷地に対する建物水平投影面積の割合で、用途地域ごとに上限が決められている
※斜線制限:建築基準法第56条に基づき、道路境界・隣地境界・北側境界から一定の距離に建物を建てられないルール
※防火規定:建築基準法・都市計画法により定められている防火地域準防火地域・法22条区域などでは、建物の構造や仕上げに防火材料(不燃・準不燃・難燃材料)の使用が義務付けられており、軒もその対象
ただし、軒がない・短いことによりデメリットもあるので注意が必要です。
軒ゼロ&軒の出が短い住宅のデメリット・注意点、対策

日本において、古くから住宅には軒が設けられてきました。
その背景には、軒がないことによるデメリットが関係しています。
外壁の劣化が早くなる・汚れやすい
軒には、雨が外壁の表面を流れるのを防いだり、紫外線から守ったりするのが役割です。
そのため、軒がないもしくは短い住宅は以下の問題点が発生する可能性があります。
- 外壁に雨・紫外線が直接当たり、外装材や塗膜が劣化(風化)しやすい
- 外壁と屋根の取り合い(接合)部分が雨にさらされ、部材の劣化によって雨水が侵入するリスクがある
- 外壁に雨だれの跡が付いたり、藻・苔が繁殖したりする
外壁の劣化や汚れを防ぐためには、高耐久な外装材や塗装を選ぶ必要があります。
雨漏りのリスクが高くなる
軒は、壁面や窓に流れ落ちる雨水の量を低減する役割があります。
そのため、軒がないもしくは短い住宅は、以下の理由によって雨漏りするリスクが高まるので注意しましょう。
- 外壁が受ける雨量が多い
- 屋根で受けた雨が直接外壁に流れ伝わる
- 雨樋(横樋)と外壁の距離が近く、詰まりや接続不良によって溢れた雨水が外壁に伝わりやすい
- 外壁の劣化に伴い、ヒビ(クラック)が入る
- 雨・紫外線の影響によって、窓周りなどの細かい取り合い部分に充填されたシーリング(コーキング)が劣化する
「軒ゼロ住宅=雨漏りする」とは言い切れませんが、屋根の傾斜・形状や外壁の取り合い部分について納まりを十分検討する必要があります。
室内が暑くなる・省エネ性が下がる
軒は窓辺の日差しを遮る役割があります。
軒がないもしくは短い家は、多くの日差しが室内に入り明るくなる反面、窓の断熱性によっては多くの日射熱も取り込みます。
高断熱住宅であっても、外壁や窓が日陰になるかどうかで空調負荷は変わるため、近年は日射遮蔽の目的で軒の出を長くするパッシブデザインの住宅も少なくありません。
※パッシブデザイン:高断熱と太陽光・自然風・地熱などの自然エネルギーを組み合わせ、冷暖房をできるかぎり機械設備に頼らず快適な室内環境をつくる住宅設計手法
▶︎おすすめコラム:環境配慮型「パッシブデザイン住宅」の建てる前に知っておくべき注意点
エアコン室外機や給湯器の劣化が早い
軒がないもしくは短い住宅は、屋外に設置するエアコンの室外機や給湯器が雨や紫外線に直接当たり、劣化が早まる可能性もあります。
エアコン室外機と給湯器のどちらも、本体が雨や紫外線によって故障することはありませんが、エアコンのドレンホースや給湯配管の保護(保温)材、パッキンなどのプラスチック部品は、紫外線によるひび割れや変色、硬化が現れるのでこまめな点検が必要です。
そのため、家の外部をきれいに保ちたい場合はエアコン室外機や給湯器カバーを設置しましょう。
ただし、それぞれ排熱が必要なので仕様には注意が必要です。
ウッドデッキの劣化が早い
戸建住宅にウッドデッキを設置する事例は多いですが、平屋建ての場合、軒がないもしくは短い住宅はウッドデッキの劣化が早まる可能性があります。
材質にもよりますが、雨水が木材に浸透して乾燥・湿潤を繰り返すと、ひび割れや反りなどの変形が起こります。
ウッドデッキが日陰で雨に濡れた後に乾きにくい条件下では、木材腐朽菌やシロアリの繁殖も心配です。
さらに、樹種によっては木材に含まれるリグニンという成分は、紫外線を吸収して化学反応を起こし、色褪せや強度低下をもたらします。
軒ゼロ住宅にウッドデッキを併設する場合は、ウッドデッキの上に屋根など雨や紫外線を遮断するものを造作しましょう。
▶︎おすすめコラム:【建築士解説】人気の「アウトドアリビング」は本当に快適なのか?後悔事例とその対策
眩しい・家具や内装が劣化する
軒ゼロ住宅はシンプルな外観が魅力ですが、軒も庇もない窓からは、室内に太陽光が多く入ります。
太陽光には「眩しさの原因となる可視光線」と「家具や内装の日焼けにつながる紫外線」が含まれるので注意しましょう。
- 可視光線による眩しさ→目の不快感や視力低下につながる
- 紫外線による内装材や家具の日焼け→色褪せや表面の風化につながる
そのため、太陽光が多く差し込む窓辺には日焼け防止塗装されたフローリング材を選び、家具は部屋の奥に配置することをおすすめします。
眩しさ対策としては、窓ガラスに可視光線を軽減できるフィルムを貼る方法もありますが、複層ガラスにフィルムを貼るとヒビの原因になる可能性がありますので、必ずメーカーに確認しましょう。
屋外から室内が見えやすい
軒の下は日中、影になるため、外部から室内の様子が見えにくくなります。
逆に軒ゼロ住宅では、窓全体に光が当たって明るくなるので、外から中の様子が丸見えになる場合があるのでご注意ください。
外部からの視線対策としては、窓を型ガラスやすりガラスにするか、ブラインド入複層ガラスを入れる方法があります。
軒裏換気できない
最近の住宅は高気密・高断熱で小屋裏(屋根裏)の太陽光で温められた空気が抜けないため、軒裏換気が必要になります。
軒裏換気とは、住宅の屋根と最上階天井の間にある小屋裏(屋根裏)の空気を入れ替えるために、軒裏に換気口や有孔板をつけて熱気を排出し、結露や室温上昇を防ぐための方法です。

傾斜屋根の最上部に換気棟を取り付け、軒裏換気口と合わせて煙突効果※により効果的に小屋裏換気する方法が多く採用されています。

※煙突効果:熱い空気は上昇し、冷たい空気は下降する現象を利用して、空気の流れを生み出す方法
軒がないもしくは短い家は、軒裏換気の部材を取り付けるスペースがありません。
軒ゼロ住宅で小屋裏を換気したい場合は、軒ゼロ換気が採用されますが、納まりに工夫が必要になります。

屋根のデザインが限定される
軒ゼロ住宅は、キューブ型住宅に採用される陸屋根(フラット屋根)や、片流れ屋根が原則で、寄棟屋根や切妻屋根は採用が難しいので気をつけましょう。
家の形状や外観デザインを自由に検討したい方は、軒あり・軒なしの両方で建築会社とプランニングを進める方法がおすすめです。
ただし、日本の住宅には古くから軒があるのが原則なので、軒ゼロ住宅と和風・和モダンな外観とはあまり相性は良くありません。
▶︎おすすめコラム:【純和風から和モダンまで】住宅の外観デザインを決める際のポイントは?
外壁のメンテナンスコストは高くなる
軒ゼロ住宅のメリットに「メンテナンス費用を抑えられる」点を挙げましたが、これは軒がない(短い)分、屋根面積が小さくなる点が要因です。
軒がない(短い)と、外壁の雨や紫外線によるダメージは大きくなるため、外壁メンテナンスの費用がかかったり、改修サイクルが短くなったりする可能性があるのでご注意ください。
軒ゼロ住宅で外壁のメンテナンス費用を抑える方法は以下の通りです。
- 雨だれ跡防止:色の濃い外装材や塗料を選ぶ
- 藻・苔防止:水捌けの良い金属系サイディングを選ぶ
- 紫外線防止:高耐久塗料を選ぶ
▶︎おすすめコラム:軒とは設けるべきもの?破風板とは違う部分?
軒ゼロ住宅にするためには、屋根と外壁の取り合い部分に工夫が必要で、雨漏りしないようにするためには必ずしもコストダウンになるとは限らない点には注意しましょう。

【FAQ】軒に関する「よくある質問」

ここでは、軒について多くの方からいただくご質問を紹介します。
Q.「軒の出はどこを指す?測り方は?」
A.軒の出(のきので)とは、外壁内部にある柱の中心から軒の先端(=軒先)までの距離を指します。
ここで重要なポイントは、「軒の出=水平距離」である点です。

屋根の傾斜(勾配)に沿って測る長さとは異なるので注意しましょう。
Q.「軒ゼロ住宅は10年後どうなる?」
A.納まりや仕様によっては、新築から5〜10年程度で外壁に劣化が現れる可能性があります。
軒ゼロ住宅でよくある劣化現象は以下の通りです。
- 外壁の雨だれ跡
- 塗膜のチョーキング※
- シーリングの劣化(ひび割れ、痩せ、硬化による弾性低下)
※チョーキング:塗料に含まれる樹脂や顔料が劣化して、表面に粉状となって浮き出る現象
外壁の雨だれ跡や塗膜のチョーキングはすぐに雨漏りにつながりませんが、窓周りなどのシーリング劣化は隙間ができてそこから雨水が内部に侵入する可能性があります。
そのため、建築会社などによる定期点検が必須です。
Q.「軒ゼロ住宅の屋根納まりは?」
A.軒ゼロ住宅や軒の出が短い住宅は、各部で換気できるように納まりを工夫する必要があります。
傾斜のある勾配屋根とフラットな屋根では納まりが異なるので注意しましょう。
【勾配屋根(軒先部)・納まり例】
- 小屋裏への給気経路が必要になるため、軒先の垂木を一部切り欠き、野地板と平になるように換気部材を取り付ける
- 鼻隠し※や破風※の板材を換気孔のある鋼板製パーツに置き換える
※鼻隠し:屋根の軒先に取り付けられる横板で、屋根の垂木(たるき)先端を隠すために取り付けられる
※破風(はふ):屋根の妻側に取り付けられる横板で、屋根の垂木(たるき)先端を隠すために取り付けられる
【片流れ屋根(棟部)・納まり例】
- 外壁の透湿防水シートを屋根下地材の先端まで張り上げ、外壁下地と外装材の間に通気層を設ける
【陸屋根(パラペット屋根)・納まり例】
- パラペットの笠木下に空気の出口をつくり、外壁下地と外装材の間に通気層を設ける
※これらの納まりは一例で、プランによっては上記以外の納まりを採用する場合もあります。
Q.「軒の出の平均はどのくらい?」
A.日本の戸建住宅は、軒の出が「300〜900mm」程度にするのが一般的ですが、最近は軒の出が1,200mm以上あるプランも人気です。
住宅金融支援機構の調査によると、首都圏など住宅が密集している地域では軒ゼロもしくは軒の出が短い住宅が多く、敷地にゆとりがあり積雪量の少ないエリアでは軒の長い住宅が増える傾向が見られます。

Q.「軒ゼロ住宅に『けらば』と『破風板』は取り付ける?」
A.軒ゼロ住宅には、軒先・けらばがなく、破風板も取り付けません。
けらばとは、屋根が壁から伸びている部分のうち、雨樋が付いていない部分を指し、破風は切妻屋根などの妻側(屋根の傾斜と垂直方向の側面)部分、破風板は破風に取り付ける横材を指します。

軒ゼロ住宅では、軒とけらばの違いがないため、破風板は取り付けないのが通常です。
Q.「軒の出が深い家にメリットはある?」
A.軒の出が深い家は、外壁が長持ちし、日射熱の遮断効果が高く、軒下空間を活用できます。
軒の出が深い家の具体的なメリットは以下の通りです。
- 外壁の広範囲を雨や紫外線から守れるため、劣化しにくく長持ちする
- 軒下空間を室内と屋外をつなぐ中間領域として活用できる(アウトドアリビングなど)
- パッシブデザインによる省エネ効果(日射遮蔽効果)を得られる
- 優雅で安定感のある外観デザインに仕上がる
施工事例(作品紹介)のページでは雑誌掲載事例を多数紹介していますので、ぜひご覧ください。

まとめ

軒ゼロ住宅や軒の出が短い住宅には、デザイン面やコスト面においてメリットがあります。
しかし、その一方で外壁の劣化や日射、雨漏りなど、無視できないデメリットもあるので注意が必要です。
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