【建築士解説】「無垢の家」の30年後は?経年変化・メンテナンスや木造住宅の寿命について

「“無垢の家”を建てたいが、10・20・30年後どんな変化が起こるか気になる」「無垢の家を長持ちさせるための方法を知りたい」という方のために、無垢の家の経年変化やメンテナンスについて建築士が解説します。
木造住宅の寿命と寿命を延ばす方法についてもお話ししますので、ぜひ最後までごらんください。
● 無垢の家を建てる際は、経年変化や長持ちさせるためのポイントを事前に知っておくことが重要です。
●「蓮見工務店 + 蓮見建築設計事務所」は、“手作りの家”をモットーに埼玉県で高性能な住宅を数多く手がけています。
目次
「無垢の家」の寿命

無垢の家とは、構造体や内外装仕上げ材に無垢材を用いた住宅で、自然素材やナチュラルデザインがお好きな方から注目されています。
無垢の家を建てたい方からよくご質問いただくのが、「住宅の寿命」についてです。
国土交通省の調べによると、日本の木造平均寿命(※)は「32.1年」とされており、諸外国と比べるとかなり短い年数です。
※木造平均寿命:ここでは、滅失住宅(取り壊される住宅)の平均築後年数とする。
参考:国土交通省|我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)
ただし、この年数は1998年に統計された古いデータであり、最近は建築材料や施工技術の進化によって、「100年」を超えて現存できる性能をもつ住宅は少なくありません。
参考:国土交通省|期待耐用年数の導出及び内外装 設備の更新による価値向上について
実際に、日本の木造技術は世界の中でも高く、14世紀に建てられたとされている箱木千年家(※)が現存していることから、新築時の条件とその後のメンテナンスによっては、何世代にも渡って1軒の家を住み継ぐことはできるのです。
※箱木千年家(はこぎせんねんけ(や)):兵庫県神戸市にある日本最古と推定される民家

「無垢の家」の築後30年以内に現れる経年変化

木造住宅の寿命は延びているものの、「無垢の家」の経年変化は避けられません。
経年変化は無垢フローリング材など“目に見える部分”である内装材だけではなく、柱や土台などの構造材にも現れます。
そのため、どのように経年変化するか事前に知っておくことが重要です。
フローリングの艶
チーク材や杉・桧(ひのき)など、精油成分を多く含む樹種をフローリングとして採用すると、新築時には無塗装のマットな仕上がりであっても、経年によって油分が表面にしみ出て、独特な艶感が現れます。
神社仏閣など歴史的な建築物の床を見ると、ワックスやウレタン塗装をしていなくても艶がある床を見たことがあるはずです。
この艶は自然発生するものであり、ずっとマットな状態を保ちたい場合は新築時にウレタン塗装(マット仕上げ)が必要です。
フローリングや壁のキズ・汚れ
無垢フローリング材や板張り壁は、無塗装でこそ“木本来”が持つ調湿性や香り成分によるリラックス効果を発揮します。
しかし、無塗装の無垢材は日頃から気をつけていても、キズや汚れは避けられません。
キズ・汚れ防止のためにウレタン塗装品を採用するケースもありますが、ウレタン塗膜は経年によって剥離したり、黄変(※)したりする可能性があるため注意しましょう。
※黄変(おうへん):ウレタン塗料に含まれる樹脂成分が日射熱によって熱分解を起こして酸化し、黄色っぽく変色する現象。
また、直射日光に当たらない場所でも経年によって塗膜が剥がれたり劣化したりするため、一度塗装した無垢材は定期的な再塗装が必要です。
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フローリングの床鳴り
無垢フローリング材は季節ごとの乾燥・湿潤によって含水率(※)が変動し、伸縮します。
※含水率(がんすいりつ):物質に含まれる水分の割合
新築(床施工)した季節によっては、以下のような理由で床鳴りが発生するケースも珍しくありません。
- 固定されている床材が膨張して材料同士で押し合い、床鳴りの原因になる
- 床材が伸縮して固定釘が緩み、床鳴りの原因になる
無垢フローリング材の床鳴りは季節が変わるとおさまるケースと、年中続くケースがあります。
いつまで経っても床鳴りがなくならない場合は、固定釘が緩んでいたり床の下地が腐朽・蟻害(※)によって劣化している可能性があるので注意しましょう。
※蟻害(ぎがい):シロアリによって木部が食い荒らされて強度が落ちる被害
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無垢材の反り・割れ・収縮
壁・天井に施工した無垢材も、無垢フローリング材と同様に含水率の変化によって変形します。
季節(温度・湿度)が変わると「伸縮・反り・ねじれ・割れ」などを引き起こす可能性は高く、板状の木材(薄くて長い材料)ほどそれが顕著に現れます。
樹種や材木の乾燥状態によって異なりますが、平均的には木目の向きによって収縮率は大きく変わるため、材料選定の際には注意が必要です。
【木材の収縮率】
繊維方向(※):接線方向(※):放射方向(※)=1:10:5程度

※繊維方向:丸太の木目と平行する方向
※接線方向:丸太の円周と平行する方向
※放射方向:丸太の円周と直交する方向
そのため、床や壁、天井に用いられる板状の木材は、一般的には「板目(いため)」の方が変形のリスクが多く、「柾目(まさめ)」の方が寸法や形状が安定しやすいとされています。

無垢材の変色
無垢材はいくつかの理由で経年変色します。
紫外線による変色
木材に含まれるリグニン(※)は、紫外線に反応して変質するため、窓辺など日当たりのいい場所では比較的すぐに変色します。
樹種によって色が濃くなるものと淡くなる(色褪せる)ものがあるため、材料選定の際には経年変色についても確認しましょう。
紫外線による変色を抑えたい場合は、木材用日焼け防止塗料がおすすめです。
薬品による変色
木材に含まれるタンニン(※)は、洗剤やクリーナー、重曹に含まれるアルカリ性物質と接触すると変色します。
酸性物質(酢など)ですぐに拭き取ると中和作用で変色が戻りますが、ムラになる可能性があるので要注意です。
金属接触による変色
湿度の高くなる季節には、木材に含まれるタンニンが金属イオン(鉄や銅など)と反応し、無塗装木材の上に金属を長時間置くとその部分だけ黒く変色する場合があります。
※リグニン:木材の細胞壁を構成する主要成分で、多く含む木材ほど弾性が高い
※タンニン:ポリフェノールの一種で、樹皮や幹に多く含まれ、動物や昆虫による被害を自ら守るための物質
これらの原因以外にも、木材腐朽菌によって腐り始めた木は黒ずむので注意しましょう。
また、樹種によってはこれらの原因がなくても自然と変色していくものもあります。
変色が起こりやすいとされているのは、リグニンやタンニンを多く含む木材です。
【リグニンを多く含む樹種】スギ・ヒノキ・マツ・ブナ、カシ、ナラなど
【タンニンを多く含む樹種】スギ・ヒノキ・カラマツ・ヒバ・アメリカンブラックチェリー・レッドオークなど
紫外線による変色を目立たないようにしたい方には、置き家具ではなく作り付けの造作家具がおすすめです。
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構造体の腐朽・蟻害
無垢の家(=木造住宅)の天敵は、木材腐朽菌とシロアリの繁殖です。
木材の腐朽と蟻害は、家の主要な構造体である土台や柱の強度を下げ、耐震性に影響を及ぼす可能性があります。
木材腐朽菌とシロアリの繁殖条件には共通点が多いため、建物寿命を延ばすためにはその環境を作らないことが重要なポイントです。
木材腐朽菌とシロアリの繁殖条件は以下の通りです。
- 繁殖に必要な養分(リグニン・セルロース・ヘミセルロースなど)がある
- 適度な湿度が保たれ、木材の含水率が20%を超える
- 繁殖に必要な空気(酸素)がある
木材腐朽菌が繁殖すると木が柔らかくなり、シロアリが食べやすい状態になるので注意しましょう。
板張り外壁の変色・雨染み・カビ
無垢の家によく採用される板張り外壁ですが、無塗装の外壁材を使うと紫外線や雨によって部分的に黒く変色したり、逆に色褪せたりするケースは珍しくありません。
日当たりの良い面と日陰の面、雨が当たる面では、段々と色違いが起こるので注意しましょう。
北面で日があまり当たらない場所や、塀や隣家との距離が近く風通しの悪い場所は、カビや藻が発生するリスクもあります。
そのため、板張り外壁にする場合は壁面の環境にも配慮が必要です。
最近は、変色が目立ちにくく防腐・防虫効果もある焼杉(※)を採用する事例が増えています。
※焼杉(やきすぎ):杉板の表面を焼き焦がして炭化させた外壁材で、炭化層によって木材腐朽菌やシロアリの繁殖を抑える効果がある。
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最近は、敢えてキズや色ムラをつけた無垢材を用いるインダストリアルデザインやビンテージデザインの人気も高まっています。

「無垢の家」の寿命をのばす方法・メンテナンス

「無垢の家」を少しでも長持ちさせたい方は、新築時・メンテナンス時のポイントを押さえましょう。
良質な木材選び
家の構造体には、変形や腐朽・シロアリ被害のリスクが少ない乾燥木材を使用しましょう。
木材は含水率30%を下回るあたりから収縮が始まり、18%程度に達すると変形がおさまることから、JAS(日本農林)規格では含水率18〜20%の木材を乾燥木材の規格としています。
しかし、実際のところは木材を施工後に放置して品質や形状が安定するのは「含水率15%」程度です。
先ほどもお話しした通り、含水率が20%を超えると木材腐朽菌やシロアリの発生リスクが高まるため、やはり材料は含水率15%近くまでじっくり時間をかけて乾燥させた木材が最適とされています。
良質な乾燥木材を選定して施工すると、季節によって空気中の湿度が変動しても木材の含水率は10〜20%に安定します。
長期優良住宅の仕様(断熱性・耐震性・更新性)
長期優良住宅とは、「長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられた優良な住宅」を指します。
具体的には、「劣化対策・耐震性・省エネ性(断熱性)・可変性・居住環境・維持保全計画」の条件を満たした住宅が認定を受けられます。
公的な認定を受けると、以下のようなメリットがあります。
- 劣化対策が講じられていてさらに維持管理や更新をしやすい家は、経年劣化のダメージを受けにくく長持ちする
- 断熱性の高い家は結露が発生しにくく、木材腐朽菌やシロアリが繁殖しにくい
- 断熱性の高い家は室温のムラが少なく、健康で快適な生活を送れる
- 省エネ性の高い家は、光熱費を抑えられる
- 認定住宅は対象となる補助金制度が増える
- 住宅ローン控除の対象となる借入上限額が引き上げられる
- 住宅ローンの金利引き下げを受けられる
- 地震保険の割引を受けられる
近年は、長期優良住宅の耐震・省エネ基準を上回る超高性能住宅も増えています。
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無垢材の保湿(乾燥防止)
無垢フローリング材は表面の摩擦によって乾燥しやすいため、定期的にオイル塗装しましょう。
乾燥を防げるウレタン塗装済みの床材は、木本来の調湿性は下がり、オイル塗装と同様に定期的な再塗装が必要なので注意しましょう。
「木の調湿性を活かしたいが、床のメンテナンスはしたくない」という方は、壁や天井に無塗装の無垢材を採用しましょう。
室内の湿度を一定に保てれば、カビの繁殖と乾燥によるウイルス・菌の飛散の両方を抑制できます。
参考:厚生労働省|冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法について
定期的な防蟻工事
新築時に土台や柱などの主要構造部には、防腐・防虫剤が注入された木材を使用しますが、その効果は永続的ではありません。
10〜30年で防腐・防虫効果が失われるため、築10年以降は1年に1回程度、床下をプロに点検してもらい、必要に応じて防蟻工事をしましょう。
床下(コンクリート基礎の立ち上がりや束の側面など)に蟻道(※)がある場合や、室内・床下に羽アリを見つけた場合は、既に木材内部にシロアリがいる可能性も考えられます。
※蟻道(ぎどう):シロアリやクロアリが移動の際に天敵から身を守るために土や木粉などで作るトンネル
ちなみに、公益社団法人日本しろあり対策協会の防除施工標準仕様書では「5年に一度」を目安に、防蟻工事をすることとしています。
屋根・外壁の定期点検と改修工事
木造住宅は水(湿気)に弱いため、家の寿命を延ばすためには雨漏りを未然に防ぐ対策が欠かせません。
そのため、屋根・外壁についてプロによる定期点検は最低でも10年に一度実施して、それ以外にも目視できる部分は半年から3年に一度程度チェックしましょう。
外壁モルタル塗装や軒裏天井などの木部が大きく剥がれていると、既に広範囲にまで雨水が侵入している可能性があります。
雨漏りが手遅れにならないように、定期点検の結果に基づいて早めに改修工事を行うことが長寿命化において重要なポイントです。
屋根と外壁のつくりを工夫する
新築時のプランニングによって、屋根と外壁の劣化を遅らせることも可能です。
以下の方法を取ることで、劣化しにくくなりメンテナンス費用を抑えられます。
- 板張り外壁を採用する場合は、軒の出(※)を長くすることで雨が直接外壁に当たりにくくなって劣化対策になる
- 屋根の構造をシンプルにすることで、水捌けが良くなり劣化対策になる
- 屋根の雨樋(横樋)に落ち葉が溜まって排水不良を起こさないように、家の近くに落葉樹を植えない
※軒の出:外壁面から飛び出た屋根の先端(軒先)までの水平距離を意味し、軒天井の奥行きを指す。
将来を見越した設計プラン
長く住み続けられる家にするためには、構造部や内外装仕上げ材の物理的な劣化対策に加えて、将来を見越した設計プランも重要になります。
可変性も踏まえて間取りを決めましょう。
家族構成やライフスタイルの将来的な変化を予測できる場合は、それをプランへ反映させることをおすすめします。
- 近い将来にお子様が独立する場合は、子供部屋を別の用途でも使えるようにあまり作り込まない
- 近い将来にお子様が増える場合は、収納スペースを多めにしておく
- 近い将来に車椅子などを使用する可能性がある場合は、玄関を広くしたり寝室を1階に配置して水回りを近くにしたりするなど、バリアフリーも考慮する
このように、10・20・30年後を見越したプランニングによって、ずっと住み続けられる家になります。
埼玉県でずっと住み続けられる「無垢の家」を建てたい方は、設計施工実績が豊富な蓮見工務店へご相談ください。

まとめ

長寿命な「無垢の家」を建てたい方は、経年変化を事前に把握しておきましょう。
また、家を長持ちさせるためのプランニングやメンテナンスのコツについても知っておくことが重要です。
デザインと性能、快適さの全てを持ち合わせた家を埼玉県で新築・リノベーションしたい方は、注文住宅の設計施工事例が豊富な「蓮見工務店」にお任せください。
